空には紺色のカーテンと弱弱しく瞬く星の照明
終幕の舞台は廃墟と化した都市のコンクリート剥き出しの建物の一室
 あなたは私の膝枕の上で、今まさに人生の幕を閉じようとしている
それとも、もうずっと前に閉じていたの?


 私たちが出会ったのは6年前、この崩れ去った都市で
貴方は自分の年を知らないと言ってたけど、私から見たらまだ十代後半に見えた
私も自分の年齢は分からなかったけど大体同じぐらいの年だと思った

 今の時代、生きてる人と会う事は殆ど無いけど私と貴方が出会ったように貴方と出会ってから多くの人と出会うようになった
時には食料を分け与えたり、交換なんかした
勿論私の体や蓄えてる食糧を狙って来る人も当然居たけど、そんな奴らは一人残らず貴方が追い返すか始末してくれた
 友好的に出会った人たちと別れる時、貴方は決して『さようなら』とか言わなかった
何時かその理由を聞いたらこう答えてたね
「『さようなら』ってのは別れの言葉だ。人によっては一時的な別れの時でも『さようなら』って言うかも知れないけど僕は言わない。
僕の中での『さようなら』ってのは一生の別れの言葉だから。
もしかしたら、再び会うかも知れないのに永遠の別れの言葉を言うのは…寂しいからね。」

 そう聞いた時は「ああ、貴方は優しい人」と心から思った
相手を思いやる気持ちを持った優しい人だと
もちろん、優しいだけじゃなくて悲しい優しさも持ってた
苦しんで苦しんで、それでも生きたいと願っている助からない人を優しく送ってあげたこともある
その時貴方は涙を流しながらさようならと言ってた




 貴方には言って無いけど、私は食料やお金、命の為に多くの男に抱かれた事がある
でも、愛し合ったのは貴方だけ
心から愛することが出来たのは貴方だけ
 正確に定義出来ないのに愛なんて言うと可笑しいかも知れないけど
愛していました

 たとえ私の、貴方の命が尽きてもこの愛は永遠に残ると信じてる




 もう直ぐ貴方の命は消えようとしている
きっと、太陽が落ちるぐらいに貴方も私の前から去ってしまうんだろうね…
だんだん呼吸の間隔が長くなってる

 「アキノ…もう直ぐ君ともさよならだ。」
薄く目を開けて私を見上げた貴方は弱弱しいけど、精一杯微笑みながら私に言った
 そんな事言わないで。
変えがたい現実だろうけど、受け入れることなんて出来ない。
受け入れたくも無い。
 「わがまま言わないでおくれ…君と一緒に居た時だけが僕の生きてると実感できる唯一の時だった。
君と別れるのは辛いけど…ごめんね…。」
 いや…いやよ…何処にも行かないで…
優しい貴方は震える右手を持ち上げて涙が伝う私の右頬を優しく擦ってくれた
その手は信じられないほど冷たくて、私の知っている貴方の手じゃなかった
 「ごめんね。その願いを僕は叶えてあげることは出来ない。
それと、一つだけお願いがあるんだ。聞いてくれる?」
 ナニ?何でも聞いてあげる。私に出来ることなら何でも叶えてあげる。
だからお願い。逝かないで

 私が言った後貴方は、私の心を安心させる、こんな私にも自信を付けてくれる飛びっきりの微笑を向けて言ってくれた
貴方の笑顔があれば何でも出来る
貴方の笑顔があれば…貴方の願いを叶えてあげる
さぁ、何でも言って。そして逝かないで




「泣かないでおくれアキノ…君が泣くと僕も悲しい。」





 頬を擦っていた手は力なく落ちて
貴方は微笑と、少しの温もりを残して逝ってしまった

 貴方は信じられないぐらいに優しい人
自分よりも人を優先して、死ぬ間際にも私の心配なんてして…

 でも、ごめんね
貴方の願いを叶えてあげる事は出来ない。出来るはずも無い
貴方を失って悲しみを堪えろなんて…出来るはずが無い



 流した涙が貴方の顔に降り注いで
それでも貴方は微笑を崩さない



 誰でもいい。答えて
この人を、私が唯一愛した人が戻ってくる方法を
 その為ならどんな苦しみも我慢できる。どんな怒りも我慢できる

 誰でもいい。答えて
本当は聞こうと思ったけど、貴方を不安にさせたくなかったら聞けなかった。でも、貴方自身から聞きたかった
ねぇ、私もそっちに逝ったら貴方は喜んでくれる?微笑んでくれる?
それとも、悲しむの?なんで来たんだって怒るの?


 誰か教えて…誰か…



 答えは無い
聞こえて来るのは貴方の体を前に嗚咽を垂らす私の泣き声だけ



 空には漆黒のカーテンとキラキラと瞬く星の照明
舞台は廃墟と化した都市のコンクリート剥き出しの建物の一室
貴方は私一人を残して幕を閉じてしまった








 さようなら 愛する貴方









SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送