「それはオレだ〜!」
天気は快晴。街道を進むには絶好の日。プタティセルバの首都ルネージュの門の前
俺、事ラッシュと相棒ヴァルの前に現れた10歳前後の少年がそう叫んだ所から今回の話と面倒ごとは始まった訳で…
ラッシュとヴァルの珍道中
第一話 届け物は何ですか?
プラティセルバに入って早五日目
天気は上々。すれ違う人の表情に影は無く、公園や噴水周りの憩いの場には笑顔が溢れている
「なあ、ラッシュ。この場所での商売はどうだった?」
俺と一緒に横を歩いている相棒のヴァルが話しかけてきた
こいつ腰には剣。手には槍と仰々しい武装をしているが一応入国審査には引っかからなかったし、検査書も持っているので職務質問されても問題は無い
それに、職業が傭兵という立場なので…いや、この場合過去形にするべきか現在進行形にするべきかわからないな…まあ、今は俺の護衛をしている
俺たち二人は五日間滞在していたプラティセルバ首都ルネージュを南に出て国内を南下しようと南門に移動している
ヴァルが言っているのは行商の話で、ヴァルは俺の護衛を。俺は国から国へとその地その地の特産物を仕入れて別の国に持って行って売る
これで生計を立てている
「ん?ああ、フーリュンで大量に仕入れた医薬品が高めに売れたから暫くの旅費には困らないだろうな。
いや〜高い山々に深い森、寒さに耐えて仕入れた甲斐があったってもんだ。
あとは、プラティセルバで何か仕入れて別の場所で売りさばけば嬉しいんだけどな。」
前に訪れた国はフーリュン。大陸の北東の端にある深い森と高い山が殆どの医療の発達した国だ
で、そこで仕入れた医薬品をここで売った訳だが…正直国境ひとつ超えただけでは利益はあまり出なかった
ヴァルには大見得を切ったが、あまり懐は潤っていない。が、ここで売らないと先への旅が辛いだろうと判断したから
…いや、何事も限度というのがあるな。うん、またひとつ学んだな。うんうん。
「でもなあ、ラッシュ…前々から言おうと思ってたんだが…これって…密貿え」
ああ、ヴァルは傷ついた俺の心に追い討ちを掛けようなんて。いや、それよりも誤解がある様なのでちゃんと訂正しておく
「あのな〜ヴァル。俺はちゃんと商業ギルドに加盟してるんだから、これはお前が言おうとしていることなんかじゃないんだ。
だから大丈夫だって。」
俺の言葉に納得したのか、それとも俺の肘鉄がそれほど効いたのかヴァルは黙ってくれた
「どうした〜ヴァル?さっさとしないと置いていっちまうぞ〜?」
語尾に音符マークが付きそうなぐらい陽気に喋ってもどうやらヴァルは怒っているらしく、怒気が感じられる
「くっそ!こいつ…」
「あはははは」
とりあえず、わき腹を押さえているヴァルは置いといて先に南門に行ってしまおう
南門に着く時には、ヴァルが先を歩いて俺は後ろでわき腹を押さえながら歩いている。しかも口からは赤いラインが一筋
いやいや、何事もやり過ぎは止めておいた方がいいな…俺って学んでないな〜
プラティセルバ・ルネージュ南門前に着いた。ここも中央と変わらずにぎやかだ
「んじゃあ、二人分の通行手続きしてくるから。ちょっと待ってて。」
「解った。それじゃあ適当に出店ぶらついてる。」
俺は二人分の通行所を貰いに、ヴァルは暇を潰しに各々の目的のためにその場を離れようとした時
「おじさんたち!これからこの首都を出るの!?」
あ〜、といあえず。身分証はヴァルの分も預かってるし、入国書もあるから通行書の作成なら30分も掛からずに出来上がるだろう
「ヴァル。直ぐ済むだろうからあんまり遠く行かないでくれよ。」
「ああ、わかったよ。」
「『格好いいお兄さん達!』これからこの首都を出るの!?」
格好いいとは言い過ぎだろうが、さっきから子供が話しかけてるしそろそろ振り返ってあげてもいいだろう
とりあえず、俺に用事があるってのは俺たち二人に用事があると同意義だから歩き出そうとしているヴァルを引き止める
「ああ、お兄さん達はこれからルネージュを出て南に進んでカムリアに入るまでがとりあえずの予定だよ。
で、そんなお兄さん達になにか用かな?」
「ラッシュ…いくらガキとは言え、見ず知らずの他人に自分の情報を垂れ流すのは感心できないな。
っま、お前の子供好きじゃあ仕方ないかも知れないけどな。」
「なんか、誤解を招きそうな物言いだけど…まあいいや。」
それに俺は中途半端に大人ぶってる子供は嫌いで、無邪気な子供が好きなんだ。まあ、さっきのシカトは…大人への通過儀礼って事で
俺たちの会話が終わるのをじっと待っている少年が我慢できずに口を開く
「でさ、おじさ…お兄さん達はカムリアに向かうんだね!実は、どうしても東ベーグに届けて欲しいものがあるんだ!」
「駄目だ。」
ああ、無情にもヴァルの一言で一刀両断。有無をも言わせぬ断言。さすがに俺もこれには苦笑いを零す
が、少年にとっては苦笑いですまないのか、並々ならぬ事情があるようでヴァルの一言で堰を切ったように頼み込んできた
「大丈夫!絶対に邪魔になったりしないし!荷物にもならないから!本当、もう「あ〜こりゃ楽々」って言っちゃう位楽だから!
それに、届けて欲しい場所まで届けてくれたら届け先でちゃんとお礼もしてくれるから!
最後に居たのが大分前だからわかんないけど、それなりのお金持ちだから荷物を届けたら勿論お礼は出るはずだよ!
どう?ここからだったら5日もすれば着く場所だから!どうかお願い、『すごく格好いいお兄さん達』!!」
一気に捲くし立てた台詞は10歳前後とは思えない気迫と熱意があり、俺もヴァルも言葉を無くしていた
「あ〜…ちょっとだけ考えさせてもらえるかな?少年。」
「…ダレンだ。」
「ダレン、少しだけ相談する時間を貰えるかな?」
少年の了承を得てヴァルの首根っこを掴んで少し離れた所で相談としよう
「で、どう思う?」
少年に背を向けて俺とヴァルは肩を組んで話し合いを始めると、開口一番ヴァルが聴いてきた
「賛成だ。よっぽど重要な届け物なんだろう。是非とも『荷物』とやらを届けてやるべきだと俺は思う。あの少年の熱意に心打たれた。」
「ラッシュ…お礼だろう?お前が心打たれたのはお礼だろ?お礼だよな?お礼に決まってるよな?
第一だ…『荷物』が何なのか聞いてない。まずはそれからだ。
お前は賛成らしいから、荷物が何なのか聞いてオレが納得したらこの依頼は頂きだ。」
「お前もかすかなお礼に心奪われたんだろ?そりゃ、俺達根無し草にとっちゃお礼や無料の言葉は魅力的だもんな?」
最後の方はニヤニヤとした笑いが含まれた俺の台詞だったが、ヴァルは一つ咳払いしてダレンの方に歩いていった
「わかった。とりあえずその荷物をカムリアの東ベーグに運んであげるよ。まあ、報酬が払えなかった時は体で払ってもらうけどね。」
「お、お前まさか…本当に…」
「ええい!確かに紛らわしい言い方はしたが、アレは冗談だ!冗談!で、何を何処に届ければいいのかな?」
俺がダレンに尋ねると若干の間が相手から少年が答えた
「それはオレだ〜!」
少年の今までで一番の大声に周りが一瞬静かになった
二人の時間は一瞬止まった
「なんで連れて来たんだろうな〜…。」
俺が頭を抱えて愚痴を言っても焚き火を挟んだ二人は一向に答えてはくれない
俺たち三人が居る場所はプラティセルバ領内のウィルゼン宮殿とピュルッツの中間の森の中。夜の帳の下りた森の中で焚き木を囲っている
俺。とヴァルにとっては居て欲しくない、ここには本来居ないはずのダレン
ダレン自身が荷物だと解って直ぐに踵を返しても、首都を出ようとする俺の足にしがみ付いて離れず、出ようとすればダレンを連れて行かなければならず、ああだこうだ言っている間に結局俺が折れたんだ…ああ、あそこでもう少し気丈に振舞っていれば〜!
時間はルネージュを出てから一日目の夜
それまで歩きっぱなしだった為にダレンは疲れて既に毛布に包まって寝息を立てている
が、それまでが凄まじかった
俺達二人の自己紹介を済ませた後、ルネージュを出たダレンは初めて門をくぐったかの様にはしゃぎ回るは、気になる物があれば直ぐに弄りに行こうとするわ…俺はあくまで商人であって子守なんて一度もしたこと無いのに!
ヴァルも同じなのか、放任主義なのか。俺がダレンは手に余ると助けを求める視線を送っても完璧に無視!なんて冷たい奴!
…まあ、こいつの場合は性格がアレだから
しかも暖を取ろうと火を起こして肉を焼いてパンを食べるんだが、俺たちと同じかそれ以上を平らげる事も〜燦々たるもの!
こいつの胃袋は一体なんで出来てるのか!?で、食べたら食べたで疲れも出て今は眠りについている訳だ…あ、一食分なんかで涙しちゃいけないよね。やっぱり…でも今の俺の財布には痛い…
「で……連れてきちまったな…これからどうするつもりだ?」
なんの不満も無いと言いたげに珈琲を啜りながら問いただすヴァルに同じく、珈琲を啜りながら俺も答える…あ、涙でカップが滲むや
「連れて来たものはしょうがない…責任を持って届け先に送って報酬を貰うよ…出来れば経費込みで。
届け先はカムリアの東ベーグって言うし。なに、此処からなら明日の夕方には国境、中継地から二日で東ベーグ。あと三日あれば着く距離だ…ダレンの足でもな。
いや〜それにしても三人分の料金は痛かったな。」
最後の方は笑いながら話していた俺にヴァルがため息を付いている
そして、三人の最初の一日は何事も無く終わり夜が更ける。俺の涙と乾いた笑いと共に
俺たちは午前中にはプラティセルバの真ん中南に位置するピュルッツで休憩と食糧の補給を済ませると、ダレンの強い希望により直ぐさまその場を発った
ピュルッツを発ち、カムリアとの国境を目指し始めて3時間ほど経った
時刻は約午後四時
ほんの少しだけ傾いた太陽の下、幹線道路から離れた最短の道の中を歩いている
そこは殆ど人が通らないらしく、道も土が顔を出し道の直ぐ脇にまで木々が迫っていて中々の田舎道だ
突如として先を歩いていたヴァルが足を止める
「……どうした?ヴァル?」
険しい面持ちを保ったヴァルに対して尋ねながら、前を歩いていたダレンを俺の後ろに廻す
ダレンは何が起こったか把握し切れていないようで、怖そうに周りをキョロキョロ見渡している
「気配がする…敵意。それに殺意だ…それも複数…」
「魔物か!?」
「判らない…人間かも知れないし、亜人種かも…しかしこの動きには高い知性は感じられないな…ただ囲んでるだけだ。」
「囲まれるまで待つなよ!もっと早く知らせろって!!」
俺の突っ込みも全く意に介さずヴァルが背負っていた荷物を放り投げ槍を構える
一瞬遅れて俺も肩に掛けていた荷物を地面に落とし指輪のはまった右手を前に突き出す。決して突っ込みに気が行っていた訳では無い。断じて
「ダレン。俺の後ろから離れるなよ…もし離れたらお前を目的地まで連れて行けなくなるかも知れないからな…」
俺がダレンに忠告を与えている間にも、周りのヤブからはガザガザと木々が擦れる音が段々と迫ってくる
「…来るぞ。」
ヴァルが一言呟くと道の両脇のヤブの中から出てきたのは、ざっと20匹は居るコボルトの群れ
手にはそれぞれ木と石で作った殴打目的の斧を持ち周りを取り囲んで喉を鳴らしている
その取り囲んだ円もジリジリと間を詰めて来る…一斉に襲い掛かってくるのも時間の問題
「お〜お〜。また大所帯で来たもんだ。さて、見事に囲まれたな〜。
誰かさんがもう少し早く警告してくれてたらこんな事態にはならなくって済んだのに。」
囲まれた状況で俺とヴァルはダレンを挟んだ状態で背中を向け合っている
「待ち伏せだ。すまなかったな。今度からはもう少し気を引き締めておく。」
「ああ、別に本気にするな。お前が居なかったらもっと悪い事態になってただろうから。
とりあえずこの状況を打破しないとな。で〜?どうする?」
「そうだな…やはりここは固まって攻めてきたのから順次撃破が定石。
なんならオレが乱そうか?」
「いや、それをされると俺が面倒。それに襲われてあの唾液が服に付いたらまたクリーニング代が…う〜ん…魔法となえて一気にカタを付けるから守ってて。」
『GURA−−−!』
ヴァルが目の前から斧を振り上げて襲ってきたコボルトを槍で心臓を一突きして絶命させて直ぐに引き抜き構え直す
いや、何時見ても素晴らしい刺突
「分かった。あいつらには指一本触らせない…ただ、余りにも呪文が遅いと責任もてないぞ。」
最後の一言が終わる時には俺に飛び掛って来たコボルトを、ヴァルの槍が顔の横を通って貫いていた
「悪いな。よろしく頼む。そんじゃ行くか!
我!契約に従い汝の力を求む…大陸を駆け抜け、はるか天空を舞う風の精霊ジン…その力を揮いて迫り来るものを払いのけよ!」
呪文を唱え始めると右手にはめている指輪が緑色に輝き始める。いい感じだ
「っは!」
ヴァルはこの世界のキメラとは一線を画す動きでダレンと俺に、そして自分自身に襲い掛かってくるコボルトを確実に突き、薙ぎ払っていく
それは見るものが見ればまるで踊りを踊っているかの様に滑らかで無駄の無い動きだ
「汝の怒りは嵐!汝の息吹は突風!その力を用いて我と我守るものを包み込め…今此処に汝の力求める者あり!」
よ〜し、あと少しで呪文が完成する
と、その瞬間。ヴァルの健闘空しく取りこぼした一匹がダレンに迫っていた!
「きゃ〜!」
「!!契約に従い汝の怒りの欠片を我に託せ!天魔疾風…ハリケーン・エッジ!!!」
背後のトリアが叫び、背後から迫る凶刃がダレンに届くと思った瞬間、俺の呪文が完成した
そしてその力が猛威を振るう
一瞬のうちに俺とヴァル、ダレンを中心に風の渦が発生し始めて最初のほんの少しは肌に感じない程の渦だったが、一瞬の後にはダレンに襲い掛かっていたコボルトが吹き飛ばされる程の竜巻に成長している
轟々と音を立てる竜巻が回りに居た全てのコボルトをその鋭い刃で斬り、強烈な風圧で叩き付ける
その竜巻は俺の呪文を唱え終わってから30秒後、ゆっくりと納まった。周りには風の刃で切り刻まれたものや、風圧で木々に叩き付けられたコボルト大量に居る
「よしヴァル!今の内に中継地までダッシュ!」
俺が叫ぶと、ヴァルは足元で震えていたダレンをいわゆる『お姫様抱っこ』の形で抱え上げ、伸びているコボルトには脇目も振らず駆け出す
その後ろを二人分の荷物を抱える俺が先ほどの戦闘の激しさを全く感じさせない息使いで追う
いや、さすがにヴァルは凄いね。もう100mは差をつけられてるよ。いや、そこまで全力で走られると俺追いつけないよ
もうちょっと若かったらハッチャケながら付いて行ったかも知れないけど。ほら、あれって結構大きな魔法だから体力使うんだよね…今の俺って100mを20秒で走れるかも怪しいもんだから…
いや、全然疲れてないけどね
で、結局俺が持っていた二人分の荷物もヴァルに渡して走って着いたのがプラティセルバ側の国境検問所であり、中継地点
俺は検問所の前の芝生で大の字になって寝転がって息を切らしている。いや、さすがにヴァルに付いて行くには人種の壁が…
「…魔物に情けを掛けてたら命が幾らあっても足りないんじゃないのか?」
息を切らしていた俺の代わりに出国手続きをしてきて貰ったヴァルが帰ってくるなり文句を言ってきた。ちなみにダレンはここが安全だと解るとまた元気に周りをウロチョロしている
俺は上半身を起こして立ったままのヴァルの顔を見上げる
「あ〜…確かに殺ろうと思ってたら殺れたけど、それをするには体力も気力も要るし、疲れるから〜。
もし生き残ったコボルトが別の旅人を襲ったら、その人達で対処してもらおう♪」
ヴァルが俺の言葉に溜息を一つ付き終った時に、表情を崩さず聴いてきた
「で、ラッシュ。オレ達は国境を越えた所で今夜も野宿か?オレは構わないがダレンも子供だ。外での寝泊りを繰り返していては体に障るんじゃないか?」
おお、以外にも。ちゃんとヴァルはヴァルでダレンに気を使っていたようだ。うん、関心関心
「それなら大丈夫だ。ここの中継場は旅人に優しくてね。金を払えば簡単な寝床と風呂は貸してくれるんだ。食事は自分達で。だけどな。
だから今日はここで泊まるよ。日も沈みかけてるし、しょう〜じき言って。俺も今日は疲れた〜。」
とだけ言うと再び俺は大の字に寝転がった訳で、気づいたら二人とも既に中に入っていて、俺だけ置いてきぼり食らった訳で。
で、三人分の寝床を貸してもらった訳だが。どうしてかダレンが俺に「一人部屋がいい!」なんて贅沢な講義をしてきたが俺は大人の対処で「懐が痛いから駄目。」と率直に答えた
その後は昨日と同じ簡単な食事を済ませて、各々貸し与えられたベッドに腰掛けて武器を拭いたり、さっきの大の字の続きを続けたり、ベッドから足を放り出して足をバタつかせたり
そういえば、ダレンって俺達に話しかけて来た時以外殆ど喋ってないな。文句を言う以外。
「ラッシュ。ここの風呂は時間が決められてるらしい。もう直ぐ閉めると聞いたからお前もダレンもさっさと行って来たらどうだ?」
ぼ〜っとしていると体から湯気を出しているヴァルが居る。どうやら一人で風呂に入って来たようだ。寂しいもんだ。誘ってくれても…それはそれで困るかな?
「まあ、そうらしから。ダレン。さっさと風呂に入りに行こう。」
「!!いや、オレは一人で入りたいんだ。だからラッシュさん、先に入っちゃってよ。その後でゆっくり入るから。」
「駄目だ。何時まで開いてるか分かんないんだから、二人で入って汚れを落としてから寝るんだ。お前だって昨日はそのまま寝たんだからな。
それにだ、ちゃんと体を洗わないとリラックスして寝れないんだから。な?」
出来るだけ優しく言うとダレンは苦い顔で下を向いてしまった
「ラッシュ、お前本当は…」
「ヴァル?それ以上を言うとこの先の旅でお前は空腹に喘ぐことになるが…それでもいいのかい?」
「いや、もう言わない。」
俺がダレンに話しかけた時と同じぐらい優しく言ってやって内に込めた怒りが伝わったのか剣を磨き始めた
「さ〜て、ダレン。あんまり我侭言ってると力ずくで連れて行っちゃうからな。」
俺は項垂れているダレンの脇に手を通して持ち上げる。普段荷物を背負って旅してるからコレぐらいは軽い方だ。が、少し軽すぎないだろうか?
「うわ!止めろコラ!俺は風呂になんて入らなくていいんだ!このほうがワイルドなんだよ!格好良いんだよ!」
「っはっはっは。汗と泥臭かったら幾らワイルドでも女の子にもてないぞ〜。格好よくなりたかったら体の汚れを落としに行こうな〜」
脇で暴れるダレンとちょっと大きめだが服が乾くまでの代えとして二人分の俺の服を抱えて寝室を出て浴場へと向かう
浴場の脱衣場まで来たらさすがに観念したのかダレンの抵抗も収まった。が、苦い顔はそのまま
「さて、さっさと入っちまうか。ほら、お前も服脱げよ…って!」
俺がダレンを床に下ろすと一目散に外に逃げようとしたが、そうは行かない。伊達に旅をしてる訳じゃない。簡単に捕まえる
「よ〜し、そこまで抵抗するならこっちにだって考えがあるぞ!そら!服脱げ!」
捕まえても尚抵抗するダレンを抑えて手早く。まずは上着の服を剥ぐ…って言ったらなんだかまた誤解されそうだ
「うわ!止めろケダモノ!子供を襲ってそんなに楽しいか!?」
「はっは〜!残念ながらそんな趣味は持ち合わせていないから安心しろ!そ〜ら!あとはズボンだけだ!」
と、俺がダレンのズボンに手をかけた瞬間
「い…いや〜〜〜〜〜〜!やめて〜!きゃ〜〜〜〜〜〜!!!」
「そんな女みたいな声出したって容赦…容赦…しないぞ……ダレン…お前…お、男のシンボ」
最後まで言おうとした言葉はダレンの強烈な右ストレートによって塞がれた。いや、油断してたとは言えいい右腕持ってるね…
で、結局。「脱がしたものはしょうがない。」って事でダレンだけを風呂に入れて俺は早々にヴァルが待つ寝室に戻って来た訳だ
帰ってきた時のヴァルの第一声が「まさかお前。ダレンが女の子だって気づいてなかったのか?」だった
この口ぶりからしてヴァルは気づいていたのだろう。なるほど、女の子だから色々気遣ってたのか。うん、納得
「ヴァル…何時から気づいてたの?」
「森でコボルトに襲われた時に、ダレンの叫び声が不自然だったから抱きかかえた時にそっと。その時だ。オレはお前も気づいていると思ったんだが…
ああ、そう恨めしそうに見るな。お前も気づいてたと思ったんだ。気づいている上で一緒に風呂に入ろうとしているものかと…いや、そこまで気が回らなかった。」
なんて淡々と喋っている
ああ、今までさまざまなポカミスを繰り広げてきたが、まさか女を男と間違えるとは…いや、でも成長期前の子供って大差無いし、それに向こうが男って主張してきたんだから間違えても仕方ないよな?
って、自分自身に言い訳しても空しいだけだな…止めよう
俺が自分自身への言い訳を止めるた丁度その時、ダレンが風呂から上がって来た。うん、ダレンには聞かないといけない事がある
「で、ダレン。君が性別を偽っていたのが解った訳だが…まあ、それは大きなことじゃない。ただ気になるのは『何故』か。なんだ
ま〜もう一人の方は感づいてたようだけどな。」
俺がジト目で睨んでもヴァルは何処吹く風といった風でダレンの方に体を向けている
「じ、実は……お、男って言った方が連れて行ってくれると思ったから。女って分かったら『危ないから駄目だ』とか『邪魔になる』って言われると思って。」
……まぁ、今は『危ないから』とか『邪魔になる』ってのには突っ込みは入れないで置こう
「じゃあお前はなんで性別を偽って、危険と分かっていながら東ベーグまで行く必要があるんだ?」
ヴァルの指摘は最もだ。ヴァルも傭兵だ。与えられた情報で依頼はこなすがその情報に不備があれば確認もするだろう
「オレ達が聞きたいのはこの二つだ。『何故東ベーグなのか?』それと『そこに付いて何をするつもりなのか?』か。
お前は依頼人だから余計な詮索はしなかったが、ひとつ信用出来なくなると全てを話してもらわないと信用出来ない。場合によってはラッシュが何と言おうと俺はここで依頼を破棄させて貰う。
オレ自身と、今の雇い主のラッシュの身の安全を考えてな。」
「実はオレ…ううん。私の実家が東ベーグにあって。でも私の家はとっても貧しい上に土地の領主様が高い税を取るからとても生活できない状態だった…お父さんにお母さんにおばあちゃんと私。四人ではとても生活出来なくて。
だから、私は皆に言ったの『私を人売りに出したら皆は生活できる』って。
お母さん達は反対したけど、私の考えは変わらなくて一年前に売られてからいろんな所を連れ回された。…でもどうしてもお母さん達に会いたくなって、プラティセルバに居るって分かって国境ひとつ超えるだけだ!って思ってこっそり抜け出してきたの…自分の足で何とか家まで帰ろうって。
そしたら偶然ラッシュさん達がカムリアに行くって言うから騙してでも連れて行ってもらおう…って思って…」
ダレンの泣き出しそうな独白が終った後、少しの静寂が過ぎヴァルが俺にどうするか目で尋ねてきた
俺はひとつ溜息を吐いた後
「ま〜なんだ…うん。俺は子供が好きだから。特に自分を犠牲にして他者を守ろうとする健気な子供ってのは放っておけない性分だからな。
特別に依頼料は時価って事にして、ダレンを約束通り東ベーグまで連れて行くよ。それでいいかヴァル?ダレン?」
「ああ、お前が決めた事に従おう。オレは構わない。」
「ありがとう…ございます。」
ヴァルの何時も通りの無表情で冷たい言葉でも底に安堵があるのを俺は分かった。それとダレンの心からの感謝も
「さて、そうと決まればさっさと寝て少しでも早くダレンの故郷に辿り着こう。っと、その前にダレン。君の本名はダレンなのか?」
「ううん…本当の名前はミク。ダレンは私が考えた男っぽい名前。」
「そうか。それじゃあお休みミク。明日は早いから早く寝るんだぞ。」
ただそれだけを言うとミクは小さくうなずいてベッドの中に潜り込んだ。さて、ヴァルも寝ようとしてるし明日は早い。俺もさっさと寝よう
プラティセルバとカムリアとの中継場を朝早くに出た日は歩けるギリギリまで歩いた甲斐あって東ベーグひとつ手前のゼルクまで着く事が出来た
その日は休憩する時はしっかりと休憩する事でかなりのペースだった。
カムリアの国土は殆どが森に覆われており、森を切り開いた道は目的地までほぼ直線だった。そのせいか、道中賊にも魔物にも襲われる事は無かった。
で、今はダレン改めミクの故郷東ベーグまでもうあと少しの所まで着ている。本当にあと少しの所まで
「ほら見て!あの丘!あの丘を超えたら私の故郷よ!遠くに私の故郷が見えてくるの!そうしたら真っ先にお父さんとお母さんに飛び込むんだから!一年ぶりに会うんだもの!きっと喜んでくれるわ!」
と、ここに来て最高潮に達している
微笑ましい限りだが、俺の心には一抹の不安が過ぎっている。ヴァルも同じなのか、それともはしゃぎ回る子供が苦手なのか先ほどからあまり喋らない…こいつが喋らないのは元からか
噂を聞いたのは昨日泊まったゼルクでの酒場。噂の内容は「東ベーグの領主がある村を潰す勢いで搾り取っている。」といった内容だ
しかも聞いたその村の方向がミクの村と丁度同じ方向だった訳だ…不謹慎ではあるが、その噂の村が向かっている村で無い事を
考えていると一足先に丘の頂上に辿り着こうとしていたミクが背中を向けて全力疾走で頂上まで辿り着いた
「見て!あれが私の…村…」
いままで元気だったミクが村の方向を見ると急に元気をなくし始めた
嫌な予感がしていた。その予感は的中してしまったらしい!
一瞬ヴァルに遅れて俺もミクと丘の頂上に駆け出す
唖然としているミクの隣まで行って村の方向を見ると悪い予想は的中してしまっていた
見える村は全体が燻ぶっており、立てられていた木の家は骨組みを残して全て崩れ落ちている。火は既に消されていて土も建物も全てススで黒く汚れている
しかもこれは肉の…人の焼けた臭いと気配!
「お父さん!お母さん!おばあちゃん!」
ミクが叫んで村に向かって走り始めたのを見て俺達も走り出す
「糞ったれ!なんでこんな事を!?」
「今は毒づいても始まらない。とにかく今の状況を確認。それからどう行動するか決めてから行動だ…」
そうだ。今は言葉を吐き捨てても意味が無い。とにかく、少しでも助かる可能性のある人を助けないと!
木の焼けた臭い。木が燻ぶっている臭い。土の焦げた臭い。人の焦げた臭いと咽返るような血の臭い
混乱するミクを押し止めてヴァルが先頭で俺がミクを守る形で焼けた村の中を進んでいく
村人が全員殺されていると思っていたが、意外にも生存者は多い…が、生きている人は殆どが無傷の状態で、死んでいる人は殆ど一撃の下命を奪われている
小さな村だったんだろう、知り合いを見つけてはミクが走りよって話しかけるが虚ろな目をして心ここに有らずと言った状態だ…しかも気になるのが、生き残っている人の殆どが種族問わず老人、もしくは子供ってのが気に掛かる
結局、まともな返答を得られないまま進んだ先には一年前までミクが住んでいた家があったが、これも例に漏れず焼き払われた後だった
「そんな…お父さん…お母さん…おばあちゃん…」
膝を突いて泣き始めたミクに俺もヴァルも声を掛ける事なんて…出来ない
苦渋の選択の末に親元を離れて一年。抜け出してでも帰ってきた先には待ってくれている人は居ない…想像しただけでも恐ろしい…
「ミク?あんたミクかい?」
その声で振り返ると杖を付いた老婆が一人、ミクをじっとみながら驚いている。その声に振り返ったミクも老婆の姿を見て最初は唖然としていたが、直ぐにその老婆の胸に飛び込んで行った
「おばあちゃん!メルおばあちゃん!」
「あんた…一年前に…どうやって戻ってきたんだい?」
「ミクは俺とこいつ、相棒の傭兵とでプラティセルバから連れてきました。ミクがここに戻って来たいと頼まれたので。
…余りにも寂しかったようで、売られた先から逃げ出してまで…。」
「そうかい…せっかく帰ってきたのに…このありさまじゃあ…」
腰に抱きついて泣き続けるミクの頭に腕を回しておばあさんも一緒に涙ぐみ始めた
「よかったらこうなった原因を教えてくれないか?近くの町で噂はチラホラ聞いているが、オレ達はここに着いたばかりで事情が分からない。
ミクにもちゃんと事情を説明した方がいいと思うが?」
ヴァルの冷静な声がこういった場では皆を落ち着かせる事があるから助かる。俺では感情的になり過ぎてしまう
ヴァルの言葉を聴いておばあさんは落ち着きを取り戻して話し始めたが、ミクはずっと腰に顔をうずめて泣き続けている
「領主だよ…領主が兵隊を連れてきて村の若い女を連れて行ったんだ…抵抗した者は例外なく殺されて、最後には村に火を放って証拠を消そうと!
この子の両親も最後まで抵抗して、そのまま…」
「!!━━━━━━ぅぅ!!!」
最後の声を聞いて声を殺して泣いていたミクが声上げて泣き始めた……
「……ヴァル」
「みなまで言うな。お前の考えてる事なんてとうに分かっている。」
「…ありがとう。
ミク。俺たちの仕事はお前をここまで無事に送り届ける事だ。ここでその仕事は終ったので報酬を払ってもう…が、この様じゃあ払えないな。
暫くしたらもう一度来る。それまでに金か、それに値するものを用意しておいてくれ。」
「!!あんた達はこの子にこれ以上追い討ちを掛けようってのかい!?」
「悪いな。俺たちはコレで生活してるんだ。一々人に情けを掛けてたら生きてけね〜んでな!」
最後に吐き捨ててから背を向けて歩き出す。その背中にミクの嗚咽とおばあさんの視線を感じながら
「いいのか。それで?」
「さあな。俺はお前みたいに冷静になんてなれない。感情で動いて後悔する時は死ぬほど後悔するさ。
でもな。行動する前から尻込みする気は毛頭無い!」
「……そうか。今はお前に従おう。ラッシュ」
それからは無言で、記憶を確かに俺たちは目的地に向かってただ歩き続けた。焼け焦げた村を背にして
先ほどの村とは別の世界が広がっているようだった
行き届いた芝の整備に花壇には花が咲き乱れ、首都から遠く離れた土地に立つには場違いな屋敷
「いやいや、なかなか立派な住まいじゃないか。どれだけの血と涙で立てられたんだろうな?思いも付かね〜わ。」
「最後の確認だラッシュ。これからの行動を取ればよくてお尋ね者。悪ければ死だ。オレは死ぬ気は無いから自らの身が危険になればお前でも捨てて逃げるぞ?」
「大丈夫。お前の強さは折り紙つきだよ。俺が保障する。
それにな、ここの高官とはちょっとした付き合いがあるから何とか成らなくも無い。場合によっては一石二鳥にもなる。」
こんな綺麗な場所には不釣合いな会話を交わしながら庭を。領主の屋敷の庭を俺たち二人は堂々と屋敷に向かって歩いている
勿論門の入り口には武装した兵が二名ほど居たが、ヴァルの槍で眠ってもらった
「ところでラッシュ。先頭で重要な事はどんな事か知っているか?
特にオレ達みたいな無名が敵と戦う時だ。」
「…あ〜簡単だな。様は見掛け倒しでもいいから兎に角強くみせるんだ。第一印象で『俺たちは強い』と認識させれば相手は怯える。
怯えたら目も腕も曇るからな。
商業も似通った所あるよ。客を前に口で販売する時は、兎に角商品の凄い所を見せるんだ。そうすると客も『この商品は買わないと損』って思う…これって似通ってるかな?」
「オレは商人じゃないから分からないが、正解だ。屋敷内の兵士もそろそろ俺たちに感づく頃だろう。
一発見掛け倒しと行こうか。」
「っは。お前の見掛け倒しは凄いからな。ちょっとは手を抜いてくれよ。
あと、中に入って襲われても殺さないでくれよ。そうするとお尋ね者確定だ。」
「安心しろ。オレはお前ほど感情的にはなっていない。…それでは、行くぞ!」
気合を入れたヴァルは屋敷の扉に対して半身にし、肩幅以上に足を広げて腰を深く落とし、槍を肩の高さで水平に構え、右手を添える
同時にこの世界の魔力とは少しだけ違う魔力がヴァルから溢れ、槍全体に篭められていく
「━━━━━━━━━━━━!!」
目を閉じて力んでいたヴァルが目を見開いた瞬間。爆ぜた
一直線に飛び出し、槍を扉に突き立てた瞬間。轟音と破裂音を伴って見事に扉は四散した
扉の向こうでは既に20から30人の…見るからに粗悪な剣と鎧で身を固めた私兵がズラリと並んでいる
俺は打ち出した姿のままのヴァルの横を通って屋敷のロビーに入っていく。その直ぐ後に構えを解いたヴァルも付いてくる
その時には扉の入り口、庭側からも10人程度の同じ格好の私兵が入り口をふさぐ
俺はロビーと私兵全員を一瞥して、「この館の主。領主に会いたいのだがここには居るか!?」と叫んだ
「おお!お前達が居るのは領主様の館だ!そして、その館に殴り込んで来たんだから一戦交えるつもりだろうな!?」
ロビーの階段の上。顔に傷を負ったリーダー格らしい男が叫んだ。たしかにここまでして話し合いだ。なんていったら笑い種だ
が、よくよく見たら歳の若い者ばかりで年配者が一人も居ない…どうせ領主からのお零れに群がって甘い蜜目当ての奴だろう
「いや!俺たちは戦いが目的で来た訳じゃない!あくまでも領主に用が有って来ただけだ!会わせては貰えないか!?」
「いいや駄目だ!命令でね。不審人物が来たらとりあえず半殺しにしろってお達しだ。ボコボコにしてから連れて行ってやるよ!」
……だろうと思った。元から話し合いが通じる相手はあんな事はしない。ヴァルの力を見せ付けておいて正解だ
そんな事を思っていると回りの私兵がジリジリ距離を詰めてくる…まるでコボルトと同レベルの烏合の衆っぷり
「…ラッシュ。予想以上に統率が取れてない。オレが乱して混乱させる。とりあえずオレはあの階段の男の所まで『跳ぶ』。
守る事は出来ないが…死ぬことは」
「ね〜よ。お前も手元ミスって殺すなよ。」
「…承知!」
その一言を発するとヴァルは高低差8m、直線距離にして20mはある距離を一息で跳んで行き、驚きの顔を見せるリーダー格の男の額に槍の握り部で殴りつけて昏倒させた
ヴァルを目で追う者とその行動の驚きで動けない者で俺に迫ってくる奴は一人も居ない
「チャ〜ンス。力強く吹き荒れる風よ…荒々しくも無作為に力を揮う風よ…我が手中に収まりその力を限りなく凝縮せよ…」
右手を開いて地面に向ける。そして右手首を左手で握って呪文を唱え始めると動いていなかった兵士も気が付いたのか俺に襲い掛かってき来る
「…汝に触れしものに汝の内に込めた全ての破壊の衝撃を与えよ!天魔疾風…ウィンダム!」
瞬間、右手の指輪が光を放ち始める。そのまま右手を、頭上に剣を構えた兵士の胸元に叩き付ける
手の中に圧縮された空気が一気に弾けて魔法をたたき付けた兵士は後ろに控えている兵士の中に突っ込んでいった
今や俺の両手に同じ圧縮された空気の塊がある。魔法を唱えたら後は自動補充だ
「おら〜!どうした〜!?かかって来いや!」
吹っ飛ばされた兵士に気が行っていた兵士も怒声によって我に返って大挙して俺に襲い掛かってくる
「上等!」
さっきの奴と同じように頭上に大きく構えた奴には同じ道を辿らせる。左からの横薙ぎに振るってきた剣に圧縮空気を叩き付けて弾いた後、右手のウィンダムを顔面に叩き付けると腰を中心にバク転させる
あとは同じ。背後に気をつけながら剣を弾いてウィンダムを叩き付ける。弾いては叩き付けて叩き付けて叩き付けて!
リーダー格の男を昏倒させて振り返るって槍を構えると既に周りの兵士は剣を構えている
状況は階段の上。敵は階段の途中。敵は足場が不安定な上に状況はこちらが優位
槍を腰に溜めて上がってきた奴から順に眉間、咽、胸、腹、急所の至る所を突いて気絶させるようにして突き落とす
ラッシュから言われた通りに殺さないように刃は背中に回して
上がって来ようとした奴を突き落として5人。チラリとラッシュの方を見てみると青い服とブラウンの法衣と緑の魔法が荒れ狂っているのが見えた
周りには盛大に吹っ飛ぶ兵士が…なるほど。怒らない人間かと思ったがちゃんと怒る事も出来るようだ
確実に脳震盪を起こさせる攻撃だ…あれならすこしづつでも数は減っていく。が、やはり人種と普段の職業柄か動きが悪い
人間レベルでは中の中…良くて中の上。怒りで動きが上がったとしてもこの数でこのレベルでやっとか…まあ、今は自分の仕事を片付けよう。すこし溜まって来た
斜めから斬りかかって来た刃を槍の長さを生かして止めると共に敵の頬を打つ。そのまま左足を軸に右足で胸元を思いっきり蹴り飛ばす
階段を転がり落ちるのでは無く、蹴り飛ばす
よし、13人目。あと約20!
さすがにこれだけ魔法を持続させると息切れも起こすな…結局俺が10人。ヴァルにいたっては「最後の方になると敵が居なくなってきたので下に下りた。」と言う始末。ちなみにヴァルは俺の三倍はノシテいる
まあ、そういった事は別に気にする事じゃない
「さて、じゃあ皆さんが目を覚まさないうちに起きてもらいましょうか。」
階段を登ってリーダー格の男を無理やり叩き起こして領主の居場所を聞き出そう
「ヴァル、よろしく。」
ヴァルはリーダー格の男の上半身を起こして背中に膝を当てて気付けで起こす
「っげは!はぁ…はぁ…ああ?」
起きて目を開けて最初に見たのが俺だから理解出来ないといった顔をした後にすぐに立ち上がろうとするが、それもヴァルが剣を咽元に当てて制止させる
「さて、この状況で俺たちに逆らうとどうなるか分かりますか?
貴方に要求する事は一つ。領主が居る所まで案内してください。さて、貴方の命と領主の身柄…貴方にとってはどっちが大切でしょうね?」
出来るだけ優しく微笑んで聞いてあげたつもりだが何故か相手は震えている…まあ、案内してくれると言っているので良しとしよう
ヴァルが剣を構えた状態で、リーダー格の男の案内でほかよりも一回り大きな扉の前まで連れてこられた
「もし嘘を付いて俺達を罠にはめ様とした時は命は無い。と思ってください。」
「本当だ!ここが領主の部屋だ!嘘は付いてね〜!」
暗めに、ドスを聞かせて聞いたのが答えたのか怯えた声で答えた…そりゃ剣を突きつけられてるしな
「わかりました。それじゃあ、部屋をノックして『侵入者の身柄を拘束しました。その報告に来ました。』と言って扉を開けさせろ。」
男は小刻みに頷いて扉の前まで歩いていってから扉を数回ノックした後
「りょ、領主さま。侵入者を捕らえました。それでその…報告に来ました。」
どうにも声が震えている…演技ベタだな。と思ったら中から鍵が開く音が聞こえてきた
「お役目ご苦労さまでした。」
俺の声で安心して振り返ろうとした男の首元に目一杯力んだ手刀を叩き込んで二度寝に入ってもらう
扉が開き始めると共に崩れそうになる男の背中を蹴りつけて強引に扉の中に雪崩込む
扉の向こうには尻餅をついた恰幅のいい…と言えば聞こえが良いが、言ってしまえば肥え過ぎた体格の男性が尻餅をついている
「初めまして。突然の乱入失礼します。あなたがこの屋敷の主であり、領主さまですか?」
「き、貴様何者だ!?私を襲ってみろ!?カムリア国家が黙っては居ないぞ!?」
「おやおや、村一つ潰した貴方がよく言う。どうだ?ヴァル。見つかったか?」
ヴァルは手筈通りに部屋の中を物色していて…机の下。丁度足が置かれる場所で動きが止まった
「さて、こちらの用事も8割がた済みましたのでそろそろ失礼させていただくのですが、最後に。村から連れてきた人たちは何処ですか?
そうそう、言い忘れていましたがカムリア政府の…たしか、ラウル中将とは知り合いでしてね。ここでの出来事を告げ口する事も出来るんですよ?
まあ、証拠はありませんから貴方が信じる信じないは勝手ですが…でもラウル中将は裏方の人でしたね…それを一介の商人が知っているとは…不思議ですね〜?」
「……わ、わかった…連れてきた村人の所に案内する!だから命だけは!」
「命だけは…その言葉を襲われた村人が口にしたとは思いませんでしたか?」
最後に一発領主の顔面を一発殴っておく。すぐさま立たせてから連れ去られた場所へ案内させる
「これじゃあ、旅商人と傭兵って言うより強盗だな…」
ポツリとヴァルの呟きが聞こえた
「ヴァル、戻ってくるまでにそっち済ませておいてくれよ。」
「了解。」
とりあえず村に戻ってきた
前には囚われていた人たちが家族の元に走り寄っている…それでも居なくなった人が全員帰ってきた訳じゃ無い
ちなみに領主はあの後、囚われた人たちの所まで案内させて村人を解放した後に今まで閉じ込められていた牢屋に放り込んできた
よっぽど嫌われていたのか、去り際に罵声や唾を掛けられていた…いやいや、上に立つものとしてああはなりたくは無いな
一足先に屋敷の外に出て行った人たちに遅れて俺もヴァルと合流して後を追って今に至る
…迎える人たちの中にミクとメルおばあさんの姿も見える。俺達二人は二人の所まで歩いていった
「まぁ、悪い人たちは懲らしめて来たし、これから後処理を偉い人たちに頼もうと思うからもう少ししたらたくさんの良い兵隊さんが助けに来てくれるから。
それまでは辛抱してくれ。」
ミクは俯いたままで表情が分からないから悲しんでいるのか分からない
「それと、領主が貴方達から奪った財産です。村の皆さんで分けてください。これは脱税の対象になると思うので国に隠して皆さんで使うか、国に差し出すかは皆さんにお任せします。
それじゃあ、俺達がこれ以上居てもお役に立てないのでこれで失礼します。」
「ありがとう…本当にありがとうね…」
背中にメルおばあさんの声を受けながら以前の俺とは違って満足した気分で村を背にして歩き出す
分かってる。これは偽善とかそういった類の自己満足だって分かってる…けど…ああ。今の心境は説明出来ないな
「あの!これ…家の中から見つけた私のペンダント…お礼に…貰ってください。」
背中の直ぐ近くまで来ていたミクが差し出した手には緑色の石が申し訳程度に付けられたネックレスとは到底いえないお粗末な首飾りだった
「あの…依頼料。足りなかったらまた何時か払うから。」
差し出した手は震えていて、俺は受け取るかどうか迷ってヴァルを見ても本人は「好きにしろ」といった態度しか取ってくれない
「え〜っと、じゃあ。これは今回の依頼料として貰って置くけど…これじゃあ、あとほんの少しだけ足りないからまた会いに来るよ。
その時にさ、このペンダントと一緒に依頼料を貰いに来るから。それまでは大事に取っておいてくれるかな?」
「うん…わかった。」
「…うん、それじゃあなミク。何時来るか分からないけどそれまで元気にしてるんだぞ。」
最後にそう言ってから先で待ち続けているヴァルと共に歩き始める。正直クサイ台詞だったとは自覚しているが…な〜に、もしかして美人に育ってるかも知れないじゃないか
さて、まずする事はカムリアの首都まで出来るだけ駆け足でたどり着いて、カムリア政府に掛け合ってラウル中将と会って、ここでの出来事と領主を罰して貰うように掛け合おう
暫く忙しくなりそうがだ、なに。この気分に比べたらマシなほうだ
………まぁ、懐の寂しさとこれからの諸経費を考えるとすこし頭痛がするが…なに、なんとかなるだろう!
ヴァルは先先進んでるし、俺も行くか……
べつに格好つけたくてやった訳じゃないけど…この空と同じで気分がいいって事で。採算は取れたとしておこう。
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